パリ♡グラフィック ロートレックとアートになった版画・ポスター展【1/8迄】

日に日に寒くなりますね、月のはじめに美術館にいくつか行ってきたのでご紹介。

今年入ってからなんだか忙しくて更新全然できてない美術展リストがどんどんたまってるので今のうちに更新しなくちゃ……

 

パリ♡グラフィック ロートレックとアートになった版画・ポスター展 @三菱一号館美術館 ~1/8

 

まず第一室に入るとサティの曲が流れてて驚きます。美術展で映像作品としてではなく、BGMとして音楽が流れてるのって現代アート以外だと初めてかも。

三菱一号館美術館のコレクションからかなり作品が出てるのですが、むしろポスターの分野に造詣の深い館だからこそできる演出だなぁと。ポスターに音楽に、一気に19世紀末のパリにタイムスリップした気分になれます。

 

さて、そもそものタイトルにも出てるように、ロートレックの作品の量が半端じゃないです。ロートレック印象派の画家とも交流があるので、印象派の画家を題材にした映画や漫画などでも描かれていて、もしかしたら印象派といっしょくたで覚えてる人のほうが多いかもしれません。

ちょうど美術館を訪れる前に見た映画「ゴッホ 最後の手紙」でもロートレックの姿は描かれていました。

ロートレックは子供のころに足を怪我してから下肢の成長が止まり、それで画家の道を志すことになるので、画家の集まるシーンでも割と見分けが付きやすいです。

 

そんなロートレックの描くポスターですが、遠目で見たときにぐっと目を引く構図や色使いはさすがだなと思いますが、近寄ってまじまじ見ると特に男性の顔のデフォルメが酷く醜くされていて、なんだかなぁと感じました。妙に顔がつぶれていたり、カエルのように口が大きかったり、鷲鼻が強調されていたり……

多分、これは個人的な推察ですが、身体的な障害に関して色々と差別されてたであろうロートレックはあんまり貴族であろうとブルジョワジーであろうと、キャバレーで遊んでいるような男性は好きじゃなかったのかも知れません。身なりの綺麗な女性も、結構な割合でお世辞にも「美しい」とは言えない感じにデフォルメされているので、そういう階層自体をそもそも憎んでいたのでしょう。

その代わりのように、娼婦やダンサーといった女性の絵は躍動感があり、生き生きしていて、ふわりと広がったスカートが軽やかです。

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↑撮影可能ゾーンもあり 当時のパリの写真の壁の上に飾られたポスターのある空間は19世紀末に迷い込んだかのよう

 

今回の展示で見直したのはヴァロットンです。ヴァロットンって「名前は知ってるな~」くらいの認識でいたんですけど、彼の木版画すごい。ロートレックは多色刷りのリトグラフなのでカラフルな色彩なのですが、ヴァロットンは白黒の木版で、その2色でパキッと陰影をつけてて無駄がなくて、でもどことなく絵本のようなかわいさがあって、私はとても好きです。

 

今回の展示に出ていた≪可愛い天使たち≫1894 は絵本のようなかわいさがずば抜けてた作品です

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パリの絵本で子供が沢山いる、というと私は児童文学の「マドレーヌ」シリーズを思い出すのですが、ちょっと雰囲気似てません?

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あとこれは全然地域も時代も違うんですけど、タンタンの冒険とかも近い感じしますよね。

木版画ではありますが、ヴァロットンの作品はイラストレーションの側面が強いような気がします。

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↑《愛書家》1911 蔵書票にしたい……

 

ロートレックのように吹きつけの技法を多用すると多少の誤差は生まれるはずなんですが、ポスターは版があれば何枚でも同じものが刷れるもので、芸術的価値は低い位置づけなのかと思っていました。しかし、ポスターが流行った当初から、画家とポスターアーティストの境目は曖昧で、わざわざポスターを見るために立ち止まる男女の絵があるくらいにはポスターは芸術として認められていたことを認識した展覧会でした。

現代の私からみても、こんな素敵なポスターが街中にあったら目を留めるだろうなというものが多く、写真ではなく絵であるという目に入ってくる情報の簡素さはとても心地よかったです。

街中にこういうシンプルで目を引くポスターがもっと増えても良いかもしれない。